MENU

所長ごあいさつ

所長ごあいさつ(平成30年12月)

2018.11____.jpg

 今年も1カ月を残すだけとなりました。何となく気忙しいものです。

「山茶花の 咲きてことしも 師走かな」(久保田万太郎)

 輸血が必要なすべての患者さんのもとに安心、安全な血液を届けることが私たち血液センターの使命であり存在意義です。日本では、全ての輸血用血液が善意の献血で賄われています。昨年度、徳島県では延べ26,091人(男性20,283人、女性5,808人)に献血をしていただき、お陰様で県内の輸血を必要とする患者さんに滞りなく血液を届けることができました。ありがとうございました。

 献血は、献血者の体の負担にならないように健康で体力の余裕がある人にお願いしています。そのためいろいろな基準を設けています。献血に足を運んでいただいたものの、この基準にひっかかたことで献血をしていただけなかった方が昨年度4,587人(男性1,554人、女性3,033人)おられました。女性では3人に1人は献血をお願いできなかったことになります。最も多い理由は血液中のヘモグロビン(血液の濃さ)不足です。ヘモグロビンは赤血球に含まれ酸素を運ぶ大切な役割を担っています。血液が赤いのはヘモグロビンが鉄を含むためです。(イカ、タコ、エビなどはヘモグロビンではなくヘモシアニンという蛋白質が酸素を運んでいます。ヘモシアニンは銅を含むので血液は青くみえます。)ヘモグロビンが減少し十分に酸素を運べなくなった状態が、貧血です。

 虎の門病院の久住英二先生らによる健康な日本人女性13,147人を対象とした調査では、2,331人(17.3%)が貧血でした。50歳未満に限定すると22.3%が貧血で、そのうち25.2%は重度の貧血でした。この調査は2006年に行われた少し古いものですが、献血現場の印象からは現在も同じような状況だと思われます。貧血に特徴的な症状はないため、ほとんどの人が貧血と気付かずにいます。貧血にはさまざまな種類がありますが、最も多いのが鉄不足による貧血です。鉄が不足するとヘモグロビンが作られなくなるためです。

 運動選手は貧血になりやすいことが知られています。『スポーツ貧血』と言われ原因は鉄欠乏です。激しい運動により鉄の必要量が増加するためです。帝京大学ラグビー部は、現在大学選手権9連覇中です。この偉業は、スポーツ栄養士 虎石真弥さんによる選手一人ひとりへのきめ細かいアドバイスなくしてはあり得ませんでした。彼女は体調管理の一つの方法として、人に役立つ献血を利用しました。血液センターは、献血をしていただいた方々への感謝の気持ちとして、希望された方に血液検査の結果をお知らせしています。彼女はこのデーターをもとに選手の栄養状態を把握し、それぞれに合った献立を考えました。明らかに鉄不足で貧血の選手も多くいたといいます。栄養状態は、体格だけでは判断できないのです。

 某県の元知事は、成人T細胞白血病ウイルスに感染していることを献血によって知りました。このウイルスは白血病や悪性リンパ腫を引き起こします。感染しても全員が発症するわけではなく発症率は5%程度で、ほとんどの人は何事もなく一生を終えます。残念ながら元知事は白血病を発症しました。しかし、感染していることを知り定期的に検査を受けていたため、早期に発症を知ることができ早期から治療を始めることができました。現在は回復し、いろいろな活動をしておられるようです。

 献血の前には、検診医による診察があります。過去の検査データーを見ながらアドバイスをさせていただくこともあります。1年ほど前のことになりますが、中年男性が来られて血圧を測りながら脈を診ますと、不整脈でした。心電図検査をしたところ心房細動がみつかり、医療機関に受診を勧めました。後日、カテーテル治療を受け良くなったという話をうかがいました。

 私たちは、献血を健康管理に利用していただけるのではないかと考えています。そしてそれは、血液センターにもう一つの存在意義を与えていただくもので、大変ありがたいことです。送られてきた検査結果に関して分からない点、聞いてみたいことがあれば、お気軽にご相談ください。

 輸血は、ケガ、手術、出産等の出血に対して行われますが、最も多いのは、抗がん剤の副作用で血液が作られなくなった患者さんに対するものです。最新のがん統計で日本人の2人に1人ががんになるという結果が出ました。自分や家族、友人が輸血を必要とする時がくるかもしれません。献血は小さな勇気で行えるボランティアです。そして「情けは人の為ならず、めぐりめぐって己がため」となります。また、健康管理にも役立ちます。

 冬期は体調不良、インフルエンザなどで毎年献血者が減少し、輸血用血液の安定供給に支障をきたしかねない状況になります。一人でも多くの皆様に献血へのご協力をお願いいたします。

 この1年の血液事業に対する皆様のご理解、ご協力に感謝申し上げます。そして、来年もよろしくお願いいたします。

平成3012月吉日

参考図書

貧血大国・日本 放置されてきた国民病の原因と対策 山本佳奈著

王者の食ノート スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦 島沢優子著

過去のお知らせ

最新のお知らせ

カテゴリ一覧