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所長ごあいさつ

所長ごあいさつ(平成31年3月)

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 3月です。木々は芽吹き自然の生命力を感じる季節です。胸躍らして旅立ちの準備をする若者も多いのではないでしょうか。一方では定年を迎え退職される方もおられると思いますが、老け込むのはまだまだ早いです。これからの人生を謳歌していただきたいと思います。

「定年や遍路と書きし予定表」(古川貞一)

 「老婆は1日にしてならず。80歳のおばあちゃんをこの世に誕生させるのに80年かかる。」これは中高年のアイドル、綾小路きみまろさんの言葉です。なるほど、と思いました。

 秦の始皇帝が「不老不死の薬を探せ」と命じた木簡が発見されています。木簡は辺境の地域でも見つかっており、いかにその妙薬を欲したか想像に難くありません。現在と言えば、マスコミやネット上でアンチエイジングの話題を見聞きしない日はありません。いつまでも若さを保ち元気でいたいと思うのは世の常なのでしょうか。私事ですが、どんなに寒くても顔は水で洗うという、子供の頃から続けてきた習慣をこの冬止めました。最近血圧が高くなり、冷たい水はよくないと考えたからです。歳はとりたくないものです。

 昨年7月にインターネット会社「BIGLOBE」が10代から50代の1,500人(各年代300人ずつ、男女150人ずつ)を対象としたインターネット調査「年齢に関する意識調査」を行いました。この調査によれば、希望寿命は77.1歳で、厚生労働省発表の平均寿命(男性81.1歳、女性87.3歳)より低い結果になりました。また、60歳未満の寿命を希望する人は、20代、30代で他の年代よりも多く、それぞれ15.3%、11.7%もおりました。社会に出て現実を知り、老後に期待をもてないと感じているのかもしれません。彼らにとって不老不死は手に入れたいものではないようです。その一方で、10代では100歳以上の寿命を希望する人が18.7%と他の年代の倍以上でした。

 最高年齢記録を分析して、人間の寿命の限界は115歳ぐらいだという論文が2016年に発表されました。現在100歳を超える人は日本に7万人近くいますが、東京大学小林武彦先生によれば、これまでに115歳を超えた人は10人もいないそうで、115歳あたりが生理的限界という説には説得力があるとのことです(朝日新聞GLOBE)。しかし、寿命に限界があると結論づけることに対して反論も出されています。人間の寿命に限界があるかないかは別にして、私たちはいずれ死を迎えるはずです。ちなみに、現在公式に認められている長生きの世界記録は1997年に亡くなったフランス人女性の122歳ということです。

 一般的に、身体機能の低下は心理的側面に悪影響をもたらし、幸福感などが低下すると考えられています。加齢とともに身体的機能は低下し、できていたことができなくなります。では、長生きして幸せだと感じることはあまりないのでしょうか。最近の研究によれば、高齢者では「老年的超越」(注)が起こり、利他的な面が増え、あるがままを受け入れ、他者に依存することに対して肯定的に感じるようになるといいます(増井幸恵 日老医誌2016)。歳をとることは決してつらい、悲しいことではないようです。

 一方で、世の中にはつらい状況に置かれている方が大勢おられます。病気と闘っている競泳の池江璃花子さんもその一人だと思います。経過によっては輸血や骨髄移植が必要になるかもしれません。病気に負けないでいただきたいと思います。赤十字血液センターは、病気と闘う皆さんが安心して治療を受けることができるように今後とも使命を果たしてまいります。引き続きご協力をお願いいたします。

平成313

注)老年的超越とは、高齢期に高まるとされる、「物質的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化」を指す概念で、スウェーデンの社会学者トルンスタムが提唱しました。

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