四国地方の平年の梅雨入りは6月5日頃ですのでそろそろだと思います。昨年6月末から7月にかけての豪雨が思い出されます。今年は被害のない普通の梅雨であることを願います。そして美味しいビールを飲むことができる毎日でありますように。
「一日の区切りの一つビール飲む」（木下栄子）
今月4日から10日は「歯と口の健康週間」です。日本歯科医師会によれば、これは1928年（昭和3年）に日本歯科医師会が「６（む）４（し）」にちなんで6月4日に「虫歯予防デー」を実施したのが始まりです。「デー」は敵性語だったからでしょうか、1939年（昭和14年）に「護歯日」と変更され、1942年には「健民ムシ歯予防運動」となりました。標語も作られていて1934年（昭和9年）は「御国を守れ 歯を守れ」です。当時の社会情勢が見て取れます。
また、国民の戦意高揚、生活統制、精神動員のため標語がたくさん作られています。「欲しがりません勝つまでは」「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」「贅沢は敵だ！」などが有名です。一方では、標語をもじった「足らぬ足らぬは夫（おっと）が足らぬ」や「贅沢は素敵（すてき）だ！」などの皮肉もささやかれていたようです。庶民の精一杯の抵抗でしょうか。
話を戻しますと、虫歯予防の運動は1943年（昭和18年）から中止されていましたが、1949年（昭和24年）に「口腔衛生週間」として復活しました。その後4回名前の変更があり2013年（平成25年）から現在の「歯と口の健康週間」となっています。
歯と口の健康を守ることは全身の健康を守るためにも大切であることが最近わかってきました。口腔内には700種類以上の微生物がいます。虫歯や歯周病の原因となる悪玉菌とこれらを抑制する乳酸菌などの善玉菌が多数ひしめき合って存在し口腔内フローラ（注）を形成しています。
約8年前のことです。仕事を終えて帰ろうとした時、突然寒気と震えに襲われました。その夜、体温は39度を超えました。何らかのウイルス感染と自己診断し自然に治るだろうと病院に行かずに様子をみていました。しかし1週間経っても良くならないため病院を受診したところ、肝臓に膿が溜まっており肝膿瘍と診断されました。お腹に針を刺し肝臓の膿を取り出して調べたところフソバクリウムいう菌が原因でした。フソバクテリウムは口腔内の悪玉菌の1つです。実は、歯根嚢胞があり熱が出た日の2日後に治療予定だったのです。この歯根嚢胞から菌が血液内に侵入して発症したと考えられました。
口腔内細菌が原因となる疾患としては、以前から細菌性心内膜炎がよく知られています。最近では、歯周病と動脈硬化、虚血性心疾患（心筋梗塞や狭心症）、糖尿病、リウマチなども関連が指摘されています。また、特別養護老人ホーム入居者を対象とした2年間にわたる研究で、専門的な口腔ケアを行った群では対照群と比べて発熱日数と肺炎の発生率が有意に低かったと報告されています。そして、抗がん剤治療や大手術などで免疫力が低下することが予想される患者さんには、専門家による口腔ケアが積極的に行われるようになってきています。この最も大きな理由は、菌が口腔内から血液中に侵入するのをできるだけ防ぐためです。
全身の健康を守るためには歯と口の健康を守る必要があります。そのためには口腔ケアが重要です。口腔ケアの基本は、歯ブラシ、歯間ブラシ、デンタルフロスを使って丁寧に行うことです。定期的に専門家によるケアも必要です。そういえば、掛かりつけ歯科医院より定期健診案内のハガキが届いていました。予約を入れようと思います。
口腔内の細菌は献血にも影響を与えます。3日以内に抜歯や歯石取りなどの出血を伴う歯科治療を受けた場合は、献血をしていただけません。歯科治療によって傷ついた血管から口腔内の菌が血液中に侵入すると言われています。侵入する菌の数は少なく病原性も強くないため、健康な人にとって問題になることはほとんどありません。しかし体力が落ちた患者さんにとっては大きな問題となる可能性があるため、献血の延期をお願いしています。3日過ぎますと血液から菌は排除されていますので献血可能となります。なお、出血を伴わない歯科治療の場合には3日以内でも献血は可能ですのでよろしくお願いいたします。
歯科治療以外にも献血をお願いできないことがありますので、ご質問やご不明な点等がございましたらお気軽に血液センターにお問い合わせください。
令和元年6月
（注）フローラ（flora）とはお花畑のこと。腸粘膜や口腔粘膜の表面には細菌が種類ごとにまとまってびっしりと生息しています。それがあたかも植物が種ごとに群生しているお花畑のようであることから腸内フローラ、口腔内フローラと呼んでいます。
