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所長ごあいさつ

所長ごあいさつ(令和2年9月)

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 新型コロナウイルス感染症に加え7月の豪雨、8月の酷暑。自然は牙をむいているように感じます。人間社会でも争いは絶えません。はやく穏やかな日が来て欲しいものです。

     縁側の一番端の月見かな(山口青邨)

 1964年3月13日深夜、ニューヨーク市の住宅街の路上でレイプ殺人事件が起きました。被害者はキティ・ジェノヴィースという若い女性でした。彼女は悲鳴を上げ大声で助けを求めましたが、最悪の結果となってしまいました。当時のニューヨーク・タイムズは、周辺の住民38人が気付き、部屋の明かりをつけたり窓を開けたりしていたと報じました。しかし、誰一人積極的に助けようとはせず、警察に通報する人もいなかったそうです。

 なぜこのようなことが起こったのか。メディアや識者たちは都会人たちの無関心、冷たさなどに原因を求めていましたが、心理学者ダーリーとラタネは、多数の人が事件を目撃したことが原因ではないかと考えました。誰かが助けるだろう、自分が助ける必要はない、へたに何かをすれば邪魔になるかもしれないなど、他に多数の人がいたがゆえに、自ら行動することが抑制されてしまったのではないかと考えたのです。

 そこで彼らは、緊急事態では居合わせた人数で行動に違いが生じるという仮説を立て、実験を行いました。被験者は、単位取得に必要であるとして集めた大学生です。

 まず、学生(被験者)を個室に案内し、学生生活での問題点について知りたいので、他の参加者と話し合うように指示します。2人、3人あるいは6人からなるグループでの話し合いです。インターホンを介して行われ、相手の顔は見えません。1人がインターホンの発言のスイッチを入れると、他の人は聞くことしかできないようになっています。発言の順番はあらかじめ決められており、各グループには実験協力者が1人含まれています。そして、実験協力者が発言中に急に倒れます(演技です)。この時、話し合っている人数によって学生(被験者)の行動に違いがでるかどうかを調べました。なお、学生と実験協力者以外のメンバーは、前もって録音されたテープレコーダーの声が使用され、実際には人はいませんでした。

 結果は、倒れた人を除けば自分しかいない2人グループでは85%の学生が何らかの行動をとり倒れた人を助けようとしますが、3人グループでは62%、6人グループでは31%しか行動を起こしませんでした。人は、1人きりの時よりも、周りに人がいる時の方が行動を起こさないという結果で、仮説が実証されました。これは「傍観者効果」と言われています。

 「傍観者効果」は人だけでなく、ラット(大黒ネズミ)にもみられるという論文が、今年7月アメリカの科学雑誌Science Advancesに掲載されました。ラットは仲間が窮地に陥いると助けようとするのですが、そこに助けようとしない「傍観者」ラットがいると、あまり助けようとしなくなるというのです。このことは、「傍観者効果」が哺乳類の遺伝子に組み込まれていることを示唆しているのかもしれません。

 私どもはいろいろなところで献血の呼びかけを行っていますが、多くの人がなんの反応も示さず通り過ぎていきます。これが遺伝子に組み込まれた行動であるとしても、人には想像する能力があります。病気と闘い、輸血を待っている人の苦しみを思いやり、献血で助かる命のことを想像くださればありがたいです。

 新型コロナウイルスと酷暑の影響で献血者確保に困っています。皆様のご協力をお願いいたします。

令和2年9月

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