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ありがとうの声

ありがとう献血:岡本 崇さん 『血の尊さ』 ゆきみ

血液について私には悲しい想い出がございます。
 
幸せに美しくと念じて「幸美」と名付けた私の三女がちょうど30年前に亡くなりました。病名は「腎臓ウイリアムス腫瘍」小児がんでした。左腎臓摘出の手術を受けて、元気になったのも束の間、腹部のリンパ腺に転移をしておりまして再発いたし、抗ガン剤治療を受けました。3ヶ月の治療で小康を取り戻し、退院、帰宅ということになりましたけれども、一見、幸せな楽しい生活の中ではありましたけれども、私たちにとって、いつ再々発するかわからないという不安が、胸の中に大きなしこりとなって、おなかのそこから笑ったことのない日々が続きました。案の定、この生活は3ヶ月で終わりを告げて、三度目の入院ということになりました。
 
その後、もう良くなる事がなくて、悪化と小康の繰り返しでありました。抗がん剤投与、放射線治療の影響で、髪の毛が抜け落ち、まゆ毛、まつげまでもなくなる事態になりました。最後のダメージは血液の白血球や血小板が破壊されて、鼻や歯ぐきから出血し、食事も喉を通らないようになりました。
 
「治療には新鮮血の輸血しかない」。しかし、この子は「RHマイナス」、何百人に一人という血液型の持ち主でした。親といえども同じ血液型でなければ輸血をいただけない運命の持ち主でございました。
 
早速、保健所のほうにご協力をお願いして、見知らぬ方のお家まで血をいただきに参りました。町の保健師さんに同道していただいて、あらかじめ献血バスからいただいた試験管に少量の血をいただき病院に持って行って、娘の血液と掛け合わせOKが出たら、すぐとって返してその方をお迎えしました。同じ何百人に一人という血液型の宿命に親しみを込めて、誰もが迎えの車にいそいそと喜んで乗っていただき、遠く奈良県の病院まで来てくださいました。
 
200ccの輸血をいただくと、青白く透き通ったような顔の娘のほほに、そして唇にポッと紅が差しました。そして「オトウチャン、おなかが空いた。なにか食べたい」と言い出しました。たった200cc牛乳ビン1本分の血液でこうまで変身した我が子の姿を見て、奇跡とも思えるその姿を見て、私はいまだ味わったことのない感激に胸が震えました。「血のありがたさ」、「血の尊さ」にあふれる涙をどうすることも出来ませんでした。
その後、何人かの血を、善意の輸血をいただきながら、だんだんと娘は衰弱していって、昭和50年6月18日「今度は美しい身体になって生まれ変わってくるんだよ」と、親の祈りの元に悲しく旅立ちをいたしました。3歳と3ヶ月。「幸せに美しく」と願った娘にしては、本当にはかない命でありました。
 
しかし、お別れには思いもかけぬたくさんの方々がお越しくださいました。いただいた御芳志の一部を「試験管でも買ってください」と、あの日のお礼に血液センターのほうへお届けしました。その時の和歌山県知事さんがお口添えをくださいまして、娘の名前の付いた血液運搬車「幸美号」として皆さま方の献血を運ぶことになりました。
ちょうど時を同じくして、その知事さんがお倒れになりました。輸血用の血液を運ぶ仕事が、この幸美号の初仕事であったことも何かの御縁だと今もその思い出を大切にしております。
 
その後、私も妻も献血に努力をいたしました。二人とも銀色有功章、金色有功章を頂戴しました。その上、私は献血功労章までいただきました。
65才の誕生日、最後の献血をホッとした思いと、少し淋しい思いで終えました。その後、69才に年齢が延長されましたけれども、再挑戦を試みた私でしたが、年齢のギャップはどうすることもできず、前のようにお役に立てなかったのが大変心残りでございます。
 
私は今、御坊ライオンズクラブの一会員として献血事業に関係しております。その中で感じたことは「若い人の献血がいかにも少ない」ということです。一時行われていた高校生献血も中断したままであります。クラブの献血委員会がセンターの方と同道して地域の高校にお願いに行ったこともありましたけれども、保健体育主任の先生のご理解を得られず、ご協力をいただくまでにはなっておりません。
しかしながら、若い人の血液というのは、良いことは誰も知っていることなのです。まして高校生献血は、奉仕の精神を学校教育に生かし、実践するという大きな意味合いからも、そして、献血人口の底辺を拡大するという意味合いからも、今後の献血事業に大きな課題となると思うのでございます。
 
献血運搬車「幸美号」は、いま4代目となりました。田辺血液センターに配属されている関係で、ちょくちょく逢うことがあります。白い車体に真っ赤なマークを付けていただいて、さっそうとした姿を見ますと、娘が「オトウチャン、まだまだがんばってよう!」と語りかけてくれるような気持ちがいたします。私も心の中でそっとつぶやきます。「おまえも元気でな、がんばれよ。でも気を付けてな・・・・・・」
ありがとうございました。
 

複数回献血クラブホームページより
 

病気やけがなどで輸血を必要としている患者さんの尊い生命を救うため、日本赤十字社では、16歳から69歳までの健康な方に献血のご協力をお願いしています。
献血は、毎日稼働している献血バスと常設の施設で受け付けています。
 
日本赤十字社 献血バスのご案内ページ

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