赤十字血液センターに勤務したらやらねばと思っていたことがあります。献血です。今までやったことがないのかと聞かれたら、ないのです。なぜなかったかというと注射が苦手だからです。思い起こせば、保育園のころ、予防接種がイヤで仲良し3人で裏山へ逃げたことがありました。逃げた記憶のみ鮮明でその後の顛末は覚えていませんが、きっと捕まって泣きながら注射されたと思います。
さて、献血です。4月の日曜日に近くのショッピングモールに献血バスが来るので、そこで献血しようと考えました。前日夜に暗闇の布団の中で、血液内科医としてこれまでどのくらいの血液を使ったか考えてみました。赤血球は2単位を週5本として、1年で250本、30年で7500本、多いときはもっと使用していたので実際はそれ以上ではなかろうか。血小板は・・・、とにかくいっぱい使わせてもらいました。この感謝を込めて明日は献血いくぞ、など思案しつつ寝落ちました。
そして翌日、晴天です。ショッピングセンターに行くとコロナウイルスの影響で駐車場は閑散としています。献血バスがいます。待合のあたりにはドナーの姿はありません。辺りを窺っていると赤い上着のスタッフが、いかがですかと声をかけてくれます。おもむろに、ではやりますか、と返事をして受付し問診を受け、初めて献血の目印ストラップをかけてもらいました。その後、検診医の診察、ヘモグロビンの採血、順調です。こちらにどうぞと案内され採血チェアに横になります。いよいよ本番になると昨夜の高邁な決心は何処へやら、ソワソワしてきます。かといって今更手ごろな裏山はなさそうだし、など思っていると、ちょっと痛いですよの声掛けとともに少しだけチクッとして採血が始まりました。足組運動をしたり、手を握り開きしたり、コラム用の写真を撮らねばなど気を紛らわしたりしていたら400ml採取が終了しました。長いような気もしましたが、あっという間でもありました。バスを降りて椅子に座りジュースを飲みながら、いわく言い難い充実感を感じました。患者さんのためにとか、そんな思いではなく、言ってみればTVでやっている『はじめてのおつかい』ができた時のような感じでしょうか。
さて、家に帰って一息です。お菓子を食べました。いつもは1個で咎められます(健康に気遣って?)。今日は栄養を取らないといけない、ブツブツ言いながら堂々と3個も4個も食べました。そうです、何といっても献血してきたのです。次回は3か月後です。栄養を取らねば。
何回も何回も献血いただいている皆様には読んでいただくのも恥ずかしい初めての献血の話です。
岐阜県赤十字血液センター
所長 髙橋 健