【バトンをつなぐ】
岐阜大学医学部の学生さん(1グループ7人前後)が、月に1回程度、1日研修のために岐阜県赤十字血液センターを訪れます。私が最初に血液事業の話をして、その後に献血と供給を見学します。
採血見学の際に、お一人の献血者さんに見学のご了解をいただきました。私が、穿刺前の消毒、血管の選択など説明していましたら、学生達はちょうど大学でお互いに採血、針刺しの実習を始めた頃で、うまく出来たり出来なかったりとのこと。これを聞いた献血者さんが学生に、「献血の針、刺してみる?」、「失敗してもいいよ、反対側を刺せばいいよ」と声を掛けられました。
その言葉で以前病院に勤めていた頃を思い出しました。
採血が苦手な新人看護師さんがいました。白血病の患者Mさんの病室(無菌個室)に採血に行ったきり戻ってきません。後でMさんに聞いてみると、採血がうまく出来ず、反対側の腕でも失敗し、別の看護師を呼びに行こうとしたのでそれを止め、Mさんはその看護師に向けてまた反対の腕(最初の側)を差し出して・・・。
採血はなかなか上達しませんでしたが仕事は採血だけではありません。白血病で治療中の患者さんは、時に40℃に及ぶ高熱を繰り返し汗だくとなります。Mさんが言われるには、その看護師さんは着替えの介助の時、汗で濡れた衣服を、いつもきれいに畳んでビニール袋に仕舞ってくれたとのことです。
新人が最初からうまいことは稀です。どこかで自分を育ててくれる患者さんに出会えた医師、看護師は幸せです。数年後その看護師さんは、皆から信頼される優秀な看護師さんになりました。
さて、話を献血に戻します。ご提案いただきましたが残念ながら学生さんに針を刺してもらうことはできません。献血の穿刺は、血液製剤として患者さんに届けるための穿刺です。消毒についても方法や回数まで細かく決まっています。手順を熟知して、トレーニングを積んだ看護師が、1回で刺します。
ということで針刺しは叶いませんでしたが、69歳、この日最後の献血にお越しいただいた献血者さんの言葉はありがたいご意向です。
ちょうどこの日、発注していた献血バスの紙袋が血液センターに届きました。今後、ショッピングモールなどの献血の際に、感謝の小物などを入れてお渡しする予定で作成した紙袋です。折角なので皆さんにお持ちいただきました。
写真は、献血者さんが学生たちに「みんな頑張ってね、自分が病気になった時は頼むね」とにこやかに声を掛けておられた時の1枚です。
岐阜県赤十字血液センター 所長 髙橋 健