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NAT(核酸増幅検査)

輸血用血液の安全性の向上

血液センターでは輸血用血液の安全性の確保のため、HBV、HCV、HIV1/2、HTLV-1等のウイルス検査を行っており、特に輸血後肝炎については検査方法の進歩によって発生率は極めて少なくなってきています(図1)。


図1 わが国における輸血後肝炎の発生頻度

わが国における輸血後肝炎の発生頻度


しかし輸血後肝炎は完全には「0」になっておりません。これらの輸血後肝炎の原因の多くは、従来の血清学的な検査法の「ウインドウ」期間に献血された血液によるものであることが明らかになってきました。「ウインドウ」期間というのは、ウイルスに感染してから日が浅くて体内でウイルスが十分増殖していないためや、まだウイルスに対する抗体ができていないため、ウイルスに感染している献血者の血液を検査しても陰性と判定される期間のことです。また、この「ウインドウ」期間は輸血後HIV感染においても非常に重大な問題となっています。

この「ウインドウ」期間の血液中にある極めて微量のウイルスを検出するための高感度なウイルス検査法の一つとして注目されているのがNATです。NATは従来の血清学的検査よりも感染してから早い時期にウイルスを検出できるため、検査陰性と判定される「ウインドウ」期間が短くなり、輸血用血液の安全性のさらなる向上が期待されます(図2)。血液センターでは全国的に1999年10月から献血いただいた血液のHBV,HCV,HIVのウイルス検査にNATを導入しており、さらに2020年8月5日からHEVについても新たに追加されました。


図2 ウインドウ期間

ウインドウ期間

NATとは

NATとは核酸増幅検査(Nucleic acid Amplification Test)の頭文字を取ったものです。遺伝子の一部の核酸を取り出し(抽出)、その核酸を倍々で増やして(増幅)、増えた核酸を検出することで遺伝子の有無を確認する検査法のことです(図3)。

数年前までは核酸の増幅方法がPCR(Polymerase Chain Reaction)法という方法しかなかったため、遺伝子検査法をPCR法というのが一般的でしたが、最近ではPCR法とは原理の異なる核酸増幅法:TMA (Transcription Mediated Amplification)、NASBA(Nucleic Acid Sequence-Based Amplification)、LCR(Ligase Chain Reaction)などが開発され、これらの核酸増幅法を利用した遺伝子検査法を総称してNATと呼んでいます。

NATを使用したウイルス検査法はウイルスの持つ遺伝子を数万倍以上に増幅して検出するため、従来の血清学的な検査法(ウイルス抗原、ウイルス関連抗体等を検出する方法)に比べ、極めて感度の高い検査法です。


図3 NATの基本原理

NATの基本原理


NATの導入によって「ウインドウ」期間は従来の血清学的検査法よりも短縮されますが、「0」にはなりません。従って、感染してから極めて早い時期に検査された場合はNATでも陰性となる可能性があります。

ウイルスに感染しているおそれのある人が検査目的で献血されると、ウイルスで汚染されている血液が検査をすり抜けて輸血に使われる可能性があります。

そのため、血液センターでは「検査目的の献血をしない」ようお願いしています。


参考文献

Schreiber GB et al; NEJM, 1685-90, 1996.

日本赤十字社 輸血後肝炎の防止に関する特定研究班報告書 1993-1995, 1996.